避難所、小屋

SHEL´TTER #49 の感想です。

 

今回は服のショッピングデート、みたいな感じです。

 

結局バラバラに書くような内容になってしまって、

感想としては読みにくくなってしまったかもしれませんが、

 

普通に書くよりも伝えやすい気のすることもあったので、

今後もこの形にするかも、しれません。

 

表紙をめくって、見開きのカットからです。

 

 

(p003,011)

 

 淡い紫のジャケットを着た飛鳥が、目線だけで鋭くこちらを見上げる。音楽が無くとも踊りだしてしまいそうだ。

 偶然入った店で、特に理由の無いかのように手に取ったそれを、飛鳥は軽やかに着こなす。振り上げた腕ぐりから、白い肌が覗いていた。

 「軽いね。全然野暮ったくない。」

 自分なら避けてしまう色と形の服だが、飛鳥が着ているのを見ると、自分にも似合うような気がしてきてしまう。

 「ね。軽いよこれ、着てみても。」

 飛鳥はそう言いながら、姿勢を崩し、膝で体を浮かせるような格好をする。

 違った意味で伝わってしまった。もちろん服のことも含めて言ったが、それだけではない。むしろ、飛鳥の着こなしの軽さを誉めたかったのだ。次の言葉を探すのにも時間がかかってしまった。

 そうして一瞬、後悔をしていると、飛鳥が左腕を下げ、ジャケットがはだけたようになった。華奢な肩や細い腰が見える。単純な若さだけでない、骨格の美しさが見てとれる。

 「綺麗だね。肌が綺麗だから尚更に。」

 「ちょっと出し過ぎとかじゃない?大丈夫?」

 「全然大丈夫だと思うよ。上からそのジャケット着るんだよね?それで中もキッチリしたのだったら、春にしては少し重くなっちゃうような。」

 「そうだよね。うんうん。でもこのジャケットはちょっと違うかな。」

 飛鳥はすぐに他の服を手に取り、試着室に向かった。ジャケットを渡され、飛鳥がカーテンを閉める前に、デニムだけの姿を見て、やはり綺麗だと思った。

 「やっぱりデニム、いいね。あすが着たらデニムでも凄く綺麗。」

 「ありがとう。でも次は、デニムじゃないなぁ。笑」

 飛鳥が少しだけ照れたような、何かを期待する子どもに困るような色を強くして、笑った。伝わった、ような気がする。

 「そっか。笑 じゃあ待ってるね。」

 

(p010,表紙)

 

 カーテンで仕切られた向かいで着替えを待っていると、飛鳥がカーテンにくるまれるようにして、着替えた上半身だけを見せてくれた。

 「上はこんな感じ、です。笑 ボトムス、ちょっと時間かかりそう。」

 「ありがとう。こっちから見るとね、今のあす、めっちゃ可愛いよ。アイスのコーンに入ってるみたい。」

 「んー、そのイメージじゃちょっと可愛いすぎるかな。もうちょっと面白くして?笑」

 飛鳥はまたカーテンを閉めてしまった。

 もうちょっと面白く、か。

 暫く考えてできたイメージは、飛鳥が大きな写真に巻かれている様子だった。晴れた日の郊外の空き地に、黄色い立て看板があって、英語で字が書かれている。そんな可愛いさとは無縁な風景に、飛鳥が巻かれている。ポーズは可愛いまま。髪型は変えてみよう。ロックバンドのボーカルみたいに、主張を激しく。なかなか良いイメージができた。こんな飛鳥も良いな。

 「お待たせ。どうかな?」

 先ほどのジャケットの色に近いような、淡い紫のトップスに、ラベンダー色と言ったほうが良いような、より淡い色のジャケットを、やや崩して着ていた。

 「全体で見ると、色合いは女の子らしいけど、形は意外と男っぽいかな。特にジャケットが。」

 飛鳥は僕の言葉に小さく頷くと、鏡越しに、見覚えのある表情をした。

 どこかを見つめながらも、一点を強くではなく、様子を伺うように見る目線。ほんの少しだけ開いた唇。この飛鳥の表情を言葉にするのに「アンニュイな」という言葉がよく用いられる。それ自体に多くの意味や用途があるように、この飛鳥の表情も、端的に表現することのできない、とらえどころの無い表情だ。でもだからこそ、モデルとして被写体になるとき、特にこの表情に近いとき、飛鳥自身の主張や存在感が、服とのバランスに置いて、絶妙になっているように思う。アイドルとしてであっても、はっきりと意志が感じられないからこそ、探しに行くと引き込まれるような魅力を生む。飛鳥が、カメラに向く顔の角度や口や頬の力の抜き入れといった、本当に微妙な違いまで意識してそうしているのか、撮影者が切り取った結果そうなっているのか、僕には分からないが、印象深い表情の一つだ。

 

(p004,005)

 

 隣に少し雰囲気の違った店が並んでいた。同じ系列の店のはずだが、メンズのような雰囲気だ。

 「ここなんか、好きなんじゃない?」

 「うん、僕も安心して着られる色合いだ。」

 「やっばりさっきのところは好きじゃなかった?笑」

 「いや、あすには着て欲しいと思うんだけどね。」

 「とりあえず着てみたら、意外としっくりくるようになる、ナルモンヤデ。」

 「それもそうやな。ってなんで関西弁。」

 「なんか私より、とっとのほうが言いそうなことだったから。笑」

 「合ってるよ。嬉しいなぁ。」

 飛鳥は昔から、僕の言い回しをよく覚えてくれていて、時々、それを真似する。自然に覚えたのかもしれないが。どっちにしても、僕はそんな気がするとき、凄く嬉しい。

 その店で飛鳥がまず着たのは、首回りが四角く空いた黄色のオーバーチェックのような柄のシャツ、白無地のデニムに、蛍光黄色の靴を合わせていた。一見すると80年代頃の男性のファッションのような印象も受けるが、チュニックのシルエットやベルトのデザインなどで大きく異なっている。

 「女の人は黄色のチェックとホワイトデニムを、そんな風に着られるんだね。」

 「ちゃんと可愛くなってるでしょ。」

 イスにもたれてポーズをとってくれた飛鳥は、鋭さが失われていないカジュアルさを身にまとっていた。

 

 また飛鳥は試着室に入っていってしまった。もっとも、今度は僕のリクエストなのだが。

 リクエストしたのは、ベージュのジャケットとブラウンのボトムスである。ボトムスのほうはサイズが女性じゃなければ僕が着たいぐらいで、飛鳥が着るとどうなるのか、見てみたかった。

 楽しみな期待はあったが、予想を超えて、良く似合っていた。

 「あす、良いよ。凄く似合ってる。」

 「ほんとに?全部アースカラーって、あんまりしたこと無いんだよね。」

 「全部なのも良いよ。」

 体格よりやや大きめのジャケットであったが、ジャケットの着丈より下の足の長さは余るほどにあり、その長い足元が全体を引き締めていた。

 「似合ってるなら嬉しいけど、ちょっと今の私の好みとは違うかな。今は強めの色に慣れてて。」

 「そうだよね。もちろん僕もそっちのあすも大好きだし、とりあえず一回みれて良かったっていうところかな。」

 「また気分が変わってきたらこういうのもしてみるね。」

 

(p009,012)

 

 「ていうことで、つなぎっぽいセットアップで、濃い紫のを着てみました!」

 またまた着替えた飛鳥は、例えばブルーノ・マーズとか、ひょっとしたらマイケル・ジャクソンかというような雰囲気の服装をしていた。しかしよく見ると、女性的なアクセントも加えられている。

 「凄いね!僕の中ではこの紫は『グレイルの紫』なんだけど、上下だとまた違うね。」

 「あー、あったね。色だけだと、同じような色のトップスも持ってるよ。」

 「うんうん、あれ可愛い。あ!今のもいい!」

 飛鳥が、掛けていた紫のサングラスを、斜めに外そうとしたのである。まさに男性歌手がパフォーマンスで魅せるような、無言で口説くかのような視線があった。

 「カッコいいねあす。なんかね、きゃーってなる。」

 「こうやって服を着てると、いつもより色んなことができる気がするな。」

 「本当に別人感があるよ。もう一個見たいな。」

 

 赤紫と黒のバイカラーのコートをまとい、黒のサングラスをかけた姿のなかで、綺麗な肌や唇がより際立つ。サングラスの縁から、視線が覗いた。

 「どう?笑」

 「あぁごめんごめん。笑」

 無言で見てしまっていたことに気づいて恥ずかしくなった。

 「良いですよ。後ろ姿も良いね。」

 「ね。後ろは黒が多めで。」

 

 「さ、そろそろ最後かな。最後、どんなのがいい?」

 サングラスを外して自然になっていた飛鳥の目が、少し熱を帯びていたような気がした。

 

(p007,008)

 

 店員さんがセレクトしたオススメは、赤いレトロテイストのワンピースをメインにするか、デニムのレイヤードを重ねるスタイルかだった。僕はデニムのほうをリクエストした。デニムをレイヤードするというのに面白さを感じたのもあったが、それより大きかったのは、今日の飛鳥を、赤いワンピースよりもデニムでみたい、という思いだった。惹き付けられるようにそちらを選んだ。

 腰に巻かれているものも含めて、デニムシャツばかりで4着はレイヤードされているだろうか。デニムのショートパンツと合わせ上下デニムになった飛鳥は、薄紫のジャケットを着たときより、もっと深く主張してくるような表情をしていた。それは今日見たどの姿よりも、お互いの体温を上昇させる熱さを持っていた。

 何がそうさせたのか、あるいは僕にそう見えたのか、本当のところは分からないかもしれない。一つ分かるのは、デニムであってもショートパンツであっても、大人の女性が持つ魅力を損なうことがないような、そしてそのこと自体がより魅力を強調させるような女性になったということ。

 壁にもたれかかってこちらを見る飛鳥に近づき、気がつくと目の前に飛鳥の顔があった。もう少し近づこうとしたとき、飛鳥がまた少女のように笑った。

 「おしまい。帰ろっ。」